心に残っている言葉

社会人として1番重みのある言葉を掛けてもらったのは、社会人になってから僅か2か月後。
IT企業時代、そして社内SEとなった現在に至るまで、これ以上、心に残っている言葉はない。
”もしお前が、そのパソコンが分からないっていう気持ちを持ち続けたまま、パソコンのスキルを身に着けることができたとしたら、それはお前にとって大きな武器になる”
前回の記事にも書いたが、私は社会人になったとき、パソコンのスキルが低かった。致命的なまでに。IT企業に就職したのに・・・である。
今の自分が、当時の自分にパソコン教えてね・・・と言われたら、間違いなく途方に暮れる。
うちの会社(IT企業)にパソコンできねー、ヤベー奴が入ってきた・・・入社3週間で50人規模の会社全員がそのことを認識する。
会社全体にその共通認識が生まれたあたりで、「俺がこいつを育ててやる!」と名乗りをあげてくれた部長がいた。
「17:30になったら俺(部長)のところに来い!そして、お前が分からないこと、パソコンでも会社のことでも何でも俺に聞け!俺が全部答えてやる!」
※ちなみに会社の勤務時間は9:00~17:30。
当然私にとって有難迷惑だった。
部長には本当に申し訳ないけど、
〇私はパソコンに関して何が分からないのかが分からない。なのでそもそも質問がまともにできない。
〇私はパソコン分からねーと思いながらずっと1日過ごしている、結果、先輩・上司の目を気にしながらビクビク1日を過ごしている。つまり心身ともに疲れ果てている。だから一刻も早くうちに帰りたい。
〇そもそも17:30以降って業務時間外じゃないか?
・・・etc
散々心の中で思い続けた。
もちろんこんなこと、言葉にする資格がないのは当時の自分にも分かっていた。だから素直に従った。そして入社3週間目、毎日17:30~の地獄の質問タイムが始まる。
何が地獄って?
だって、何が分からないか、分からない。でもおかしな質問をして部長の機嫌を損なう訳には行かない。
なので、自分は心の底から知りたいわけではないけれど、部長が納得しそうな、部長が気持ちよく答えてくれそうな質問を、毎日探す。
当時インターネットが出始めのころ(私の感覚では)。
会社内ではインターネット使い放題だった。
当時としてはとても恵まれた環境・・・(今なら迷わずググって適当な質問事項を探すはず・・・)、Yahooの検索を使いこなすことができない私は、質問する内容を探すため、2日に1回くらい退社後(17:30~の質問タイム後)本屋に行き、パソコンのコーナーで、質問するための材料をかき集めた。
いい質問ができたときは、部長は機嫌よく1時間以上お話(回答)してくれた。
逆に失敗しておかしな質問をしてしまったときは、ブチ切れられて1時間以上説教された(結局どっちに転んでも1時間以上居残り)。
「お前!それじゃ~今まで教えたこと、何にも分かってねーってことじゃねーか!」
な~んて詰められることが何度もあった。
「だ~から、分からねーから聞いてんだよ!」とは口が裂けても言えなかった。心の中では何度叫んだことか・・・
しかし、毎日の17:30は待ってくれない。
毎日毎日質問を準備し、自分にとって虚しい時間を過ごす。
そんな毎日の繰り返し。
そしてだんだん部長も気づいてくる・・・全く手応えがない、と。
きっと部長には自信があったんだと思う。
俺が教えればどんなポンコツでも、1か月もあれば成長させられる!
しかし私は部長の想像を遥かに超えるポンコツだった。
せっかく部長に毎日時間をとってもらい、散々教えてもらっているのに、自分が全く成長してない。
そのことは私自身が1番よく分かってる。
そして部長もいよいよ気づいてくる。
こりゃ本当にやべー、マジでどうしようもねー逸材だ。
それでも部長なりに必死に考えてくれたんだと思う。
〇こいつのいいところは何だ?
〇この会社の他の奴らが持っていなくて、こいつだけが持っているものは何だ?
〇こいつに自信を持たせられる方法、何かないか?
追い詰められた部長が、ある日、その答えを出してくれた。その日の質問タイムの時間、私の質問タイムはなかった。
代わり部長が必死に考えてくれた答えを教えてくれた。
「な~、お前はこの会社で1番パソコンができないよな?つまりパソコンができない奴の気持ちは、この会社でお前が1番分かっているってことだ。そしてその気持ちは、そのまんまお客様の気持ちそのものだってことなんだ。この会社の他の奴らは、パソコンはできる。でもだからこそパソコンのできない人間の気持ちが分からないんだ。つまりお客様の気持ち、みんな分かってねーんだ。だからあいつら駄目なんだよ。パソコンできないときの自分の気持ちを忘れちまってるんだ。自分たちもその気持ちを持っていた時期があったはずなのに。成長して昔のこと忘れちまってんだ。でも、もしお前が、そのパソコンが分からないっていう気持ち、それを持ち続けたまま、パソコンのスキルを身につけることができたとしたら、それはお前にとって大きな武器になる。」
社会人なり立ての、遥か昔に言われたその言葉、そして未だに鮮明に覚えているこの言葉・・・
社会人となって月日が流れた現在に至るまで、これほど重みのある言葉を受けたことはない。
そしてもこの言葉は、私の社会人人生に大きな影響を与えることになる。
その後も質問タイムは続いた。始めてから2か月、入社後3か月たったころ、部長の「今日で終わり・・・」という突然の言葉で、地獄の質問タイムは終わりを告げた。
質問は100個以上した。
しかし私から質問して部長に答えていただいたもので、役に立っているものはなにひとつない。
ただひとつ、
”パソコンのできない気持ちを持ち続けたままパソコンのスキルを身につけろ”
当時の私の境遇、そしてその当時の私のことを考えに考え尽くしてくれた部長の心・・・あらゆる要因が重なって部長が生み出してくれたその言葉は、今でも私の心の指針となっている。
恐らく今後20年以上働くであろう社会人人生の中でも、年々重みを増していく言葉だと思っている。
その後、この部長が起業するからと退職するまでの間、色々教えていただいたり、様々な言葉を掛けてもらったが、今現在も役に立っている教えはこの1個だけ。
でもこの言葉だけを掛けていただいただけで十分、部長と出会えて良かった。
自分の人生に影響を与えてくれた部長の言葉、その言葉を胸に、私は今日も社内SEをやっている。
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